ドゥテルテの狙い

ドゥテルテの狙い
ドゥテルテさんの側近が「我々には様々な武器が必要だ」と言ってるんですが、武器だけではなくある意味ドゥテルテ大統領の発言も時には武器として使っている、交渉の駆け引きとして。
大統領の発言を本当にそのまま受け止めたらえらい事になるので、その裏にある意図を読み取ることは非常に必要だと思います。
確かにキャラのとんでもなく立った人。
フィリピンの人に聞くと「さすがに大統領が言う言葉ではないです。でもフィリピンの巷のちょっとアレなおじさんだったらこのくらいは言いますよ」という話だったんだけど、僕たちはフィリピンの歴史をもう一度勉強する必要がある。
植民地になったり色々悲惨な部分があったという事だけじゃなくてフィリピンの人というのはローカルな人たちに関して言うと元々イスラム教徒も多い、南部の方は。
そういうところにキリスト教を信仰する人たちが入ってきた。
さらに厄介なのがキリスト教を信仰する人たちには支配層が多い。
だから二重構造になってて、庶民たちは被り物をしたりどうしたりという事じゃないけど生活習慣の中にイスラムが入ってるという人がかなり多いという状況がある。
そして上流階級はキリスト教と深く結びついてるんですけど、そのキリスト教にかなりの資金を提供する団体。
これが例えばアメリカの名門大学の資金団体だとか、或いは軍事上のシンクタンクなんかのスポンサーになってるようなところと非常に深く結びついていたりするので、つまり色んな形での支配があって、そして下の人たちの生活というのはまた別の所で流れているという非常に複雑な社会なんです。
そういうところの複雑さというのも含めて、最もよく知り得ている大統領だという信頼感は国民からものすごくある。
こういう複雑さに加えて経済は華僑が握ってるという事がある。
今も丁度北京に行くのに400人くらいの華僑のビジネスマンと一緒に行っている。
これを一気に追い出すことも出来ないけれど、国民からしてみれば華僑支配に対して凄く反発がある。
で今度は違う外資を引き込むためにも要するに治安をまず安定させなければいけないという事情がある。
ですからドゥテルテさんは中国の脅威を受けながら、フィリピンの難しいかじ取りをして行かなければいけないという実はものすごく難しいところに居る。
だからあの人の色んな言葉の上でのパフォーマンスというのを真に受け過ぎて「とんでもない事を言ってるんだからこいつは日本の敵だ」という風に思うのは間違いです。

単純に今報道されているように親中反米に傾くとは思えない。
じゃあどういう立ち位置なのか?
側近から本音が漏れてきてるんですが結局中国は全然ダメだから、アメリカに頼りたい。
でもドゥテルテ大統領がアメリカに「武器を輸出してくれ」と頼んだ時にそれを断られ、そこに関しては大変恨みを持ってたりとか、もっと日米安保並みの強固な同盟を本当はアメリカと結びたいのにアメリカは二の足を踏んでて中途半端なフィリピンアメリカ同盟になってるのでアメリカを引き付けるためにも「じゃあロシアや中国とアレやっちゃうよ」みたいなドゥテルテ大統領の発言もある。
だから本音ではアメリカの軍事力を当てにしてる。
だってそれを使わないと南シナ海で太刀打ちできない。

今回気にしなければいけないのは、そうは言うものの共同開発という事を言い始めている事です。
実際にはそこまでいかないだろうと思うけど中国側としてはそういう事を餌にしてどんどん引き込もうという事だったり、或いは鉄道をプレゼントすると言ってみたり、そういう事がある。
ただ今回の訪中までにも色んな経緯があって、要するに中国側としては自分たちが外交的な成果を得たという事を言いたいから「日本よりも先に中国に来た」と言いたい。
つまり訪日の前に中国が口説き落として北京に来させたという風に言ってるんだけど、いやいやその前に日本の閣僚とはすでにラオスで会談してます、安倍さんとも。
その会談は非常に平和裏に終わってるし、それから岸田外務大臣とは一番最初に会ってますから。
要するにそういうところで一応ちゃんと順番は付けてるんですよ。

それから側近の上院議員の発言の中に「ファイナルシャル」とか「いろんな面での協力を日本としていきたい」という中にちゃんと「マリタイム」という事も言ってる。
つまり普通マリタイムと言ったら大体海運だけじゃなくて海上の防衛の事も指しますから。
そういう様な事についても日本と協力していくという事はもう明確になってるわけです。
だから「中国と共同開発」という話も正直どうなのかな?

それからちょっとみんなが考えなきゃいけないのは、このどんどんどんどん中国側から流されている情報というのは新華社通信とか環球時報とかですよ?
環球時報って中国版の右翼新聞みたいなものですからね。
人民日報の子会社。
ですから国際ニュースを扱ってるんですけどタカ派なんです。
そういうところの情報から殆どを引いてきてる。
だから例えばCIAがドゥテルテ大統領を暗殺するという説まで誰が吹き込んだんですか?
それは中華系の可能性が大いに高いと現地の人は言ってますけど。
で逆にドゥテルテさんが「やれるものならやってみろ」と言ったとかね。
要するにアメリカとフィリピンの分断工作のためにディスインフォメーション(故意に流す虚偽の情報)をかなり流してる。
でアメリカの報道官なんかはもう苦笑いしてて真面目に取りあってない。
アメリカ側がコメントするときの表情を見ていても「しょうがないねほんとに」みたいな事にしかなってない。
だからそういう意味で中国側の工作が今ものすごく激しく展開されている。

もう涙ぐましい工作をしていて例えば今回の訪日が中国の後になった。
マニラ新聞によると「日程の調整が困難だったと大統領が釈明し、その理由が中国政府から何度も訪中を促され」という事で、この事を周りの政府報道官に聞いてみるともう笑い話で「北京のメンツにかけて」という事でなんとか日本よりも先に北京に呼ぶために中国大使から中国政府関係者がストーカーのようにドゥテルテ大統領を追いかけまわす。
大統領は平日はマニラに居るんだけど週末はダバオ南部に帰る。
飛行機で一時間くらいのところなんですがそのダバオまで通って「何とか北京に来てください」というアプローチを執拗に続けていた。

でも我々からすると日本に別に2番目に来ようが3番目に来ようがどちらでもいいですよ。
実のある話が出来ればいい。
ほんとにバカだね中国って。
一番手の意味合いって何なの?
ストーカーみたいという話なんだけど、在フィリピンの中国大使がほんとに日参したって事なんですよ。
この人とこの周りの人たちが。
ドゥテルテ大統領の何かに帰依してるのかというくらいに凄まじかったという事。

首脳会談にはナイーブな問題もあります。
そのナイーブな問題の一つに武器弾薬の供与というのがあって、要するにアメリカは完成品だけ作ってそれを輸出するんだけど、部品、パーツはもうアメリカは作ってない。
で、それをライセンス生産してる日本が一番優秀だからそれを供与してくれという話をどうもするみたいです。
ところが日本は武器輸出三原則は今無くなったけど微妙な問題を孕んでるからそれはちょっとオープンな場ではなかなか言えない。
そこから分かるように、いくらアメリカは輸出しないと言っても、じゃあいきなりロシアとか中国から入れて今まで使ってたM16をAKにするのか?
出来っこないんですよそんな事。
だからさっきの話の延長で言うと中国はそれがあたかも起こりうるような宣伝をしてるけど決してそんな事はありません。

やっぱり「この人はトンデモおじさんだ」というレッテル貼りをして、だから中国の様なトンデモな国と仲良しなんだという風なイメージを完全に作ろうとしてるんですよ。
それに易々と日本のメディアや識者と言われる人たちが乗っかろうとする。
そんなに単純じゃない。
大体フィリピン自体が単純な国じゃないですから。
挙句の果てに「中国でもロシアでも俺に売ってくれるところはいくらでもあるわ」と言ったんだけど実際にはイスラエルから買うという事もかなり濃厚に考えている。
これはやっぱりある種の知恵ですよ。

或いはドゥテルテさんは一応反米的な旗は掲げてます。
それが国民にウケていることの一つでもあるんだけど一方で周りの人たちというのがなかなかいい役割を果たしていて、例えば中国側への特使として派遣されたラモスという元の大統領。
この人は元々アメリカの士官学校を出た人。
ですからアメリカの影響が非常にストレートに入ってる人なんだけどこの人なんかが「まあまあいくらなんでもちょっと口を慎め」という様な事をわざと投げかけてみたり、それからこれは余談なんだけどフィリピンの軍というのは殆どアメリカ軍なんです。
大体オフィサーと言われるような人たちは殆どアメリカの士官学校や軍人の行く大学院で教育を受けているような人たちなんです。
こういう感じなのでアメリカの意志で今のところ色んなオペレーションが可能になるというところもある。
ただフィリピンで一番気を付けなければいけないのは、かつてアメリカ軍の基地を追い出したことがある。
この時の経緯、或いは今までの歴代の大統領が失脚してきた経緯も含めて実はフィリピンのメディアとか、一部のフィリピン国内のプロパガンダに影響力を持つ勢力というのは完全な極左勢力なんです。
これがかなりたちが悪くて、支配層とここが結びついて都合の悪くなった人を非常に悪辣なキャンペーンをやって追い出すという事を今まで何回もやってきてる。
その一番の事例がアメリカ軍基地の撤退でもあるし、都合の悪くなった権力者の失脚という事でもある。
という前歴もあって結局ドゥテルテさんとしてはあらゆる方面と喧嘩するわけにはいかないんですよ。
だから国内の左翼勢力とも今のところは非常に良好な関係にある。
でイスラムの勢力とはもともと仲が良い。
日本とはもちろん仲が良い。

新華社通信の記者がドゥテルテ訪中の前にインタビューをして「中国だけが我々を助けてくれるんだと彼が言った」というのを凄く大きく掲げてるんだけど、いやいや同じぐらいの頃に「日本だけが我々の本当の理解者だった。日本だけが我々を一番分かってて助けてくれるんだ」と言ってるんですよ。
だから誰にでも言うんです、フィリピンのような国は大変ですから、やっぱり援助を貰わないと。
当然中国が口先だけだという事も分かってますよ、嫌というほど、痛いほど。

麻薬に関する対応も国民は支持してます。
「私刑に当たるんじゃないか?」と国際人権団体は凄く言ってきてるんだけど、残念ながらフィリピン国民はそれを支持している。
あと人権問題だと言ってるけど中国の人権問題とどこが違うかと言ったらまず一つは民主的に選ばれた大統領のやってる事を国民の8割以上が支持しているという事は政治的な正当性があるという事。
もう一つが中国の場合は民族的なマイノリティー或いは特殊な宗教的伝統を持ってる人たちに対して、民族や宗教という事で弾圧を加える。
ドゥテルテさんはそれはやってません。
「じゃあ麻薬中毒者は殺してもいいのか?」と言う人が居るかもしれないけど、罪を犯した人を撃つという事に関しては、ちょっと状況は違うけど他の先進国でも凶悪事件や立てこもり事件が起きた時にはその場で射殺する事がある。
で、これを全く手続きも経ない、民間人にやらせるという事は確かに行き過ぎだと思うけど、中国の人権弾圧とは根本的に違いますよ。
だからそこまでを今みんな一緒くたにしそうな日本の流れがあることについてはやっぱり一言ちゃんと申しておきたい。

それからさっきのラモスさん以外にも例えばドゥテルテ大統領が行く数日前にフィリピンの最高裁の判事が「大統領はリップサービスはいくらでもするだろうけど、主権の事で譲ったら弾劾されます我が国では」と。
これは当たり前。
法的にも弾劾されます。
つまり「主権を守り抜くのが大統領です」という事を言ってる。
ですからそこはちゃんと周りの人たちがバランスを取って、違う事も国際社会に発信してるんだけどあんまりそういう事がちゃんと伝わってこない。

麻薬の話を蒸し返しますが、日本では逮捕で拘束する時に、人権を守るので本当に大変なんです。
だって麻薬中毒患者って反撃するから。
だから逮捕する側が身の危険を感じなきゃいけない。
だから逮捕するときは一人でいる時か麻薬を使用してる時、なぜなら使用してる時じゃないと現行犯にならないから。
こんな事を何万何十万居る中でやってたら大変な事になっちゃいますよ。
大量に麻薬中毒患者が居るようなところでは現実問題として不可能だと思います。
関連書籍 物語 フィリピンの歴史―「盗まれた楽園」と抵抗の500年 (中公新書)
関連記事

コメント

非公開コメント